日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

偽善への挑戦 映画監督川島雄三   カワシマクラブ編 2018年 ワイズ出版

表紙が「風船」のロケ写真で、左幸子芦川いづみがお弁当を食べるシーン。

真ん中に台本?をもった川島監督が立っている。

裏表紙は「幕末太陽伝」でフランキー堺石原裕次郎が船上で対峙する時のロケらしく、川島監督は海の浅瀬でディレクターチェアに座っている。周りは工業地帯?。そし野次馬が凄い数だ。洲崎パラダイスの千草の店の前や橋の上の人達もすごい人数だったのが写真でわかる。

 

作品解説から始まって今村昌平などのエッセイや座談会、監督批評が載っている。

各作品ごとのロケ地や女優との写真がある。ただし松竹時代を除く。

(松竹時代は2014年の本に詳しい)

これは図書館で借りたが、

「洲崎パラダイス赤信号」と「雁の寺」のシナリオが載っており、思わず購入してしまった。

なぜか中古は定価より高かったけれど、まだ新本で購入できるところを探せば定価で購入できる。

マスク転売より本の高値転売をなんとかして欲しい(笑。

この本は2018年に出版されたばかりなのだが。

 

シナリオと実際の映画との違いが結構あって、今までシナリオなど読んだことはなかったけれど、何べんも見たこの映画はシナリオ読んでも楽しかった。

 

やはり5月から始まるこの映画、シナリオでは始まりに5月末と書いてあり、千草にかかっているカレンダーが5月だったのが納得。

 

シナリオ 勝鬨橋の橋詰からバスに乗った二人、蔦枝が無言で人混みを押しのけ奥の方へいくと丁度乗客が(降りるため?)に立ち空席へチャッカリ(まま)腰かける蔦枝。

映画   蔦枝は話している草野球帰り?の男性の間へ無理やり割り込んで座る。

 

シナリオ 千草に「女中さん入用」の張り紙。蔦枝が義治を促して店へ入る。

映画   「お昼も食べてなかった・・」と蔦枝が独り言のように言い、ひとり勝手に千草へ。疲れて座り込んでしまった義治が後を追う。

 

シナリオ 千草で徳子とカウンターにいる蔦枝と義治の後ろを子供たちが帰ってくる。

    「どこ行ってたのさ、今頃迄。・・・早く御飯食べちゃいな」と徳子。

    子供達奥の方へ行く。

映画   「・・・・早く御飯食べちゃいな」という徳子に子供たちが炊事場の盥にちょっと手を濡らし、「おかずはなに?」と訊くと「とろろ」という徳子に「なぁ~んだ」といいながら奥の座敷へいく子供達。

 

シナリオ 子供達とのやり取りのあと、そのまま店で座りながら蔦枝が自分をお店で使って欲しいと頼む。

映画  奥の炊事場兼調理場に引っ込んだ徳子に蔦枝が席をたって近づいて頼む。

 

シナリオ 仕事を頼んだ蔦枝が義治に「あんたからもお願いしなさいよ・・・(と促す)」義治「うん・・・(弱々しく、お徳の方へ頭を下げる)」

映画 塩豆?をつかんだ義治の手を払って蔦枝が「あんたからもお願いしなさいよ」という。義治の手から塩豆?がこぼれ落ちてしまう。

 

シナリオ 子供たちが布団を敷いている。だけ。

映画   子供たちが布団を敷いている。下の弟が窓を開け、「パ・ラ・ダ・イ・ス」とネオンのアーチの字を読んで兄に「パラダイスってなに?」と訊く「天国」というと「天国ってなに?」とまた聞く。兄は「天国って天国さ」と布団を敷きながら言う。

 

シナリオ (初日)深夜千草の表を閉めて、徳子と蔦枝が飯を食べ終わり茶を飲んでいる。

映画   深夜、徳子と蔦枝がラーメン?を食べ終えるところのみ。

 

シナリオ 翌朝、落合が廓で電車賃だけ残してお金を使い、千草のラジオを取ってみる「凄いホコリだ」裏ぶたを開ける。

映画   凄いホコリだというセリフをなくし、ラジオを棚からとって真空管がいかれてるという。

 

シナリオ 義治が「オイ、蔦枝、剃刀なかったかな」と訊く。徳子が「うちのがある・・」蔦枝は一切でてこない。

映画  義治が剃刀どこだと蔦枝に聞くと蔦枝が「知らない」とつっけんどんに答える。それを聞いた徳子が義治にうちのがあるけど何年も使ってないから剃れるかしら・・・といって義治に剃刀を手渡す。

 

ボート乗り場で客の番をしながらぼんやりしている義治

シナリオ ボートから降りたその客同士のやりとりで

女「また来てね」客「うん・・」女「きっとだよ」客は電車通りの方へ、女は橋を渡って特飲街の方へ行く。蔦枝、それを見送って船着き場のほうへ降りる。

映画 その場面は一切ない。

 

シナリオ 信夫が初枝を連れて千草に来る。

信夫「何にする?」初江「ううん、いいの」お徳「ジュースにしましょうか?」

また、お徳が「このひと、遊郭の子?」と訊くと信夫が「うん、初江って言うんだ」

「それ、お店の名前?」ときくと初江が「本名です。お店でつけてもらった名前は夢子っていうんです」と初江にもセリフがある。年齢もわかる。

映画 初江は終始うつむいて黙っている。名前もわからない。信夫が「あのねおばさん・・」といいかけると廓の女が入ってくるからまた黙ってしまう。

 

シナリオ 廓の女がカウンターに腰かけると信夫が「じゃあ、行こうか」と初江と出ていく。その後、蔦枝が橋のたもとで遊郭方面へ歩くふたりをつかまえて「あんたおかねまだじゃないの」とお金をもらってくる。店に帰って蔦枝が「近頃の若い人って見かけによらずチャッカリしてるわね」というと廓の女が「私なんかこんな年季の入った体で・・・」と愚痴りだす。

 

映画 廓の女ぼ愚痴が卑猥なので信夫は初江を促しジュース代を置いて席を立つ。徳子に「あんた私に話があったんじゃないの?」と訊くと信夫がまた来るという。

 

シナリオ 廓の女の愚痴は全て蔦枝が聞く。

     奥の部屋で暴れている子供達にお徳が早く寝ろという。

映画   奥の部屋がうるさいので行ってみると子供たちが子猫をネズミ捕りのかごにいれている。徳子が慌てて子猫を出す。