日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

豚と軍艦  1961年 日活

監督 今村昌平 脚本 山内久

出演 長門裕之 吉村実子 南田洋子 大坂志郎 中原早苗 加藤武 小沢昭一

   丹羽哲郎 三島雅夫 西村晃 東野英治郎 菅井きん 武智豊子 山内明

   初井言栄 高原駿雄 奈良岡朋子 佐藤英夫

 

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今村昌平続きます(笑。

これは何回も観ている。何年も前にDVDも購入。今回はアマゾンプライムで無料視聴♪再び。今村昌平の一番最初に買ったDVDは、これか、あるいは「にっぽん昆虫記」のどちらか。「にあんちゃん」が今村監督の最高峰ならこれが2番です。

 

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これはセットではなく本当のどぶ板通り(だと思う)貴重映像

 

横須賀の日守組のチンピラ、長門裕之はポン引きをしたりして組を手伝っているが恋人の吉村実子はもっとまっとうな仕事をして欲しいと願っている。

長門の父、東野英治郎は戦死した長門の兄が贔屓でやくざ稼業の息子とは仲が悪いが吉村実子のことは気に入っている。

 

日守組の組長、三島雅夫はベースの日系人、山内明を介してベースの残飯をわけてもらい値上がりしている豚の養豚で一儲けをたくらむ。日守組には長門がアニキと慕う丹波哲郎以下、金庫番?の大坂志郎小沢昭一加藤武がいる。

 

豚の仕入れに払う金を元ヤクザで今は足を洗ってタクシー会社を経営している(といっても暮らしは貧しい)西村晃の元へいってみなで脅かし、新車の購入資金を奪ったりする。後に西村晃は自殺してしまうのだが・・。

 

丹波哲郎はガンノイローゼで、かっこいい兄さんなのだが突然具合が悪くなったりする・・これおもしろい。

 

吉村春子の姉はそのベースの日系人のオンリーで実家にいる母と吉村以下4人の弟、妹の面倒をみるためにお金をいれているが、吉村実子にもオンリーになって欲しいと母、菅井きんともども思っているので紹介したりするのだ。そもそもチンピラの長門と付き合うことは反対なのだ。

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「お前みたいのはアメリカじゃぁフールって言うんだ!」と大喧嘩する細い(笑 中原早苗。スタイルが良い。

 

長門は組から養豚が成功したら15万円のボーナスをもらい、バンドのあっせん業でもして金儲けしたいと考えている。吉村と結婚するにもちゃんとしたアパートを借りたいとなどというが、吉村から言わせると見栄っ張りなのだ。吉村は川崎の工場でふたりで働こうと長門を誘うが長門は職工なんてまっぴらだという。

 

ある日養豚場へ行くと春駒という刑務所返りの男が組長と話がしたいと潜んでいるが面倒なことになるからと組長は春駒を殺してその後始末を手下に・・・

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夜中、死体遺棄するためにボートへのるが

長門も海へ死体の廃棄を手伝うが、翌朝、長門の父に海に浮かんでいる死体を発見されてしまう。慌てる長門はアニキを呼んでひとまず隠す。警官を呼んできたちち・・この辺・・・と指さす先には野良犬?3匹の死体がワラにくるまれて浮いているだけだった。

 

慌てて帰る父が長門を起こそうとすると長門の足が汚れている・・・そこで何かやったと思った父と喧嘩になりおもしろくない長門はそのまま家を後にする。。

結局、死体をまた養豚場へ運んだ組の連中は、養豚場へ埋めることにするのだ・・。

ある夜、丹波にアパートへ麻雀をしに行った日守組の面々。養豚場の豚の丸焼きが出される・・・のだがそれを食べた丹波・・・何か硬いものが口の中に・・・吐き出してみるとそれは差し歯?のようだった・・。それをみて粗暴な加藤武が「この野郎(豚)、頭の部分喰いやがったな・・」とニヤリとする・・・ことの次第がわかったほかのメンバー・・・吐き気をもよおすのだ(笑。

 

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豚の丸焼きが出されるが・・・

 

丹波哲郎が入院した。彼は自分が胃がんであると思って疑わない。川崎の工場に勤める弟 佐藤英夫が呼ばれて来た。その時の兄弟の話から親を早くに亡くした丹波が幼かった弟を食べさせるために愚連隊に入り・・・の経緯がわかる。

ある日、長門を呼んで自分のレントゲン写真を盗んで他の医者に診せてくれと頼む丹波。アニキに頼みだからと病院からレントゲン写真を盗み出し、3軒の医者に診せたらアニキの命は3日だと言われ・・・丹波に問い詰められた長門は白状してしまう。

オレはすぐに死ぬんだ・・・と病院を抜け出し、鉄道に飛び込もうとしたりする丹波の行動もおもしろい。そして中国人の殺し屋にドル札を渡し、いつでも好きな時に自分を撃って殺してくれと頼んだのだ。

 

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日産生命は存在した生命保険会社。少なくとも80年代初頭にはあった記憶。

 

長門と吉村はまた喧嘩している。吉村が長門に「でっかいくろんぼ連れてきな!」(長門はポン引きだ)というと「がばがばになるぞ」とか「淋病うつされるなよ、淋病!」という場面は実際ありそうな喧嘩シーンで迫力満点(笑。

長門と喧嘩してやけになった吉村が他のポン引きに遊びたいから米兵を紹介してといい泥酔したあげく3人の米兵にホテルで暴されてしまう。その後意識をとりもどした吉村。米兵がシャワーを浴びている間に米兵の制服のポケットからドル札がみえた・・ひっつかんで盗んだ現場を見られスリップ一枚で外へ逃げ出す吉村をこれもバスタオルを腰に巻いた米兵3人が追いかけ捕まってしまう。

 

翌日、警察へ吉村を引き取りに行った母、姉、そして丹波の愛人吉村が手伝っている飲み屋のおかみの南田が帰路で吉村をある米兵のオンリーになれと説得する(笑。

それを追いかけながら聞く長門裕之がいてそのカメラワークが最高なのだ。

 

吉村は結局オンリーになるのか・・・とガッカリしながら養豚場へ行くとそこには逃げてきた吉村がいた。ふたりでどこかへ行こうと誘う吉村。長門は今晩の仕事を最後にヤクザから足を洗うと言い、横須賀駅で待ち合わせすることになるのだが・・・

 

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横須賀駅長門を待つ吉村。ドレスに注目。その奥には吉村を捕まえようとまつ菅井きんと近所の武智豊子

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「来ないねぇ」という武智豊子に「どっかにしけこんじゃったんだろう、金もってんだからさ」という菅井きん、最高なふたり(笑 

その後は豚を積んだトラックから豚が放たれ、機関銃をぶっ放す長門・・・と現実離れした展開になるけれどセットにお金をかけているせいか、役者の演技のせいか、アメリカ映画みたいな現実味帯びた出来なのだ。バーチャルなどなかった時代にあれだけの豚を集めるの、大変だったろうなぁ(笑。

そこへ自分がガンでないことを知ったアニキ、丹波哲郎が南田、佐藤英夫と現れる。

アニキー!といって駆け寄る長門だが、そこへ丹波が自分を殺してくれと頼んだ中国人が現れ、懐へ手を入れる・・・ピストルを出される!と驚く丹波はもう長門など眼中になく逃げ出すのだが、中国人が取り出したのは丹波からもらったドル札でそれは偽ドルだったのだ。だから偽ドルはダメだと言うためなのだが・・(笑。

 

結局、長門は撃たれしまう。命からがら逃げた先はキャバレーの便所・・まさに便所といっていいほどリアルなセット!隣ではホステスが用を足しているが水洗のヒモを引っ張って(これ水のタンクが上にあるタイプのやつ)水がジャーっと流れ、その和式便器に顔を突っ込んで息絶える・・・ギャング映画でありそうな演出だがカッコよかった

(というかみじめな死に方がかっこよかった・・あれ?)。

 

その後、姉の計らいでオンリーになった吉村。ある日、城ケ島へ遊びに行く時、

近所の子供にお菓子を投げ与える米兵を姿をみる。母と姉は笑っているが、何かを決意した吉村は「このドレスはもらっていく」といってひとり駅へ向かって歩き出す。

ポン引きが声をかける・・・「空母が来たよ!」

駅には大勢の女達が降り立って空母からボートに乗って陸を目指す米兵に手を振りながらベースのほうへ・・・反対に駅へ向かう吉村・・・

吉村は川崎へ行くのだ。きちんと暮らすのだ・・・ということがわかる。

 

映画の途中、吉村に家には他にも弟と妹がふたりいる。オンリーの中原のもってきたアメリカの缶詰とかお菓子とかを食べて、弟がしみじみ言う。

「俺もアメリカになりたい!」(笑。

 

米軍のアクロバット飛行をみながら菅井きんが「やっぱりアメリカはいいねぇ」というと武智豊子は「そりゃぁ自衛隊とは違うよ」と返す(笑。皮肉か?

 

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大空を舞うアメリカ軍の戦闘機によるアクロバット飛行をみている

吉村実子はその後、結構きわどい役を今村映画で撮ったが、映画の斜陽とともに脇役になってしまい残念だ。一度脱いだりするとそんな役しか来ないのは日本の映画界の悪い点だ。そしてそのイメージがいつも付きまとって年をとった時には役がない・・なんてことが多い。私が最後に吉村実子を見たのはNHKの朝ドラだった・・・何年前かは忘れた。