日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

二人の息子  1961年 東宝

監督 千葉泰樹 脚本 松山善三

出演 宝田明 加山雄三 藤原釜足 望月優子 藤山陽子 白川由美 小泉博

   原千佐子 藤木悠 堺佐千夫 志村喬 東郷晴子 浜美枝 沢村いき雄

 

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加山雄三宝田明

 

宝田明が3月14日に亡くなった。男性の俳優さんにしてはずいぶん長生きな人だなという印象で90過ぎまで元気そうな印象だった。実際、最後まで元気だったようで突然具合が悪くなったらしい。長生きといえば池部良なんて長生きだったと思う。

 

動画がアップされて(ありがとう!)いて昨夜初めて宝田明が亡くなったことを知った。

おもしろいのは映画のオープニングタイトルなんかが白黒だったのでてっきり白黒映画かと思ったら(60年代初頭はまだまだ白黒多数)カラー作品だった。

脚本が松山善三だったので期待はしたがまぁそこそこそれなり?の物語なんだろうなぁとも反面思ったりした。(そんなに不幸でもなく、残酷では絶対なく)

 

しかし!不幸、不幸また不幸が襲う物語でビックリ。さらに私はダイコン役者だと思っていた加山雄三(ファンの方すいません)がなんとも良い演技でこれは監督の力量か?? 

ただやはり松山善三だから「清く正しく美しく」は終始一貫して描かれている。

 

赤木家の長男健介(宝田明)は大学卒業後、都心の会社に勤めるサラリーマン。彼妻の葉子(白川由美)と幼い娘とともに湘南の団地で暮らしている。妻の葉子は元々バーの女給であったので健介は両親に結婚を反対された。娘が生まれても両親は訪ねても来ない(というのが葉子のセリフでわかる)彼らは最初から自分達の力で今の生活を築いてきた。

 

健介の妹の紀子(藤山陽子)は同じ会社でエレベーターガールをしている。夜はタイプの学校へ通い、速記も習いたいと思う堅実な女性で同じ会社でボイラーマンとして働き、やはり夜学に通う寺岡(田浦正巳)とは友達以上、恋人未満な関係だ。しかし兄の健介はもっとましな(出世する?)男性と妹は一緒になるべきだと思っている。

 

弟の正二(加山雄三)は兄と違って出来が悪く、タクシーの運転手をしている。そこで事務員をしているさち(浜美枝)とはお互いなんとなく好意を寄せているのだが、正二は元は小学校の校長で定年後裁判所の書記として勤めていた父の信三郎(藤原釜足)が突然裁判所を辞めてしまい、一家の生活費を稼ぐために白タクの運転手をするためにタクシー会社を辞めることになりさちとは会うことはなくなった。

 

物語は団地で幸せそうに暮らす健介一家から始まる。健介は毎晩接待で遅くなるが妻のために月賦で(懐かしい言葉)冷蔵庫を買ったりする家庭思いの男だ。

ある日会社へ父が訪ねてくる。迷惑そうな顔をで外で話そうと社を出る健介の後を

足が悪く杖をついて歩く父が必死で追う。(この演出良かった)

なんと父は裁判所を辞めたので相談したいというのだ。

その夜、実家へ行った健介。実家は借家でまず住まいの心配だ。弟の正二は両親は兄の家で預かってくれ、自分と紀子はなんとか二人でやっていくからというが、健介の団地も6畳と3畳の二間きり・・・ましてや妻だって嫌がるだろう・・・

生活費も援助するのはごめんこうむりたい健介。

 

ただいろんな場面で健介には余裕があることがわかる。

例えば正二のたばこは新生?かなんかだが、健介のたばこはピースだったり。

(多分ピースは高いのだろう)

正二が健介の団地を訪れると妻が卵を三つも使ってホットケーキを作るという。

正二の家では家に一個あった卵で前の晩、大喧嘩したばかりなのだった・・等々。

だからと言って健介は贅沢な暮らしなのかというとそんなこともない。貧乏の度合いが違うだけで健介は健介でつつましく暮らしている。何もないところから一つずつ家電製品を揃え、妻の葉子は日々の生活を楽しみながらも倹約に努め貯金をしたりしているごく普通のサラリーマン家庭だ。

 

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宝田明白川由美

 

出勤途中に妹の紀子と歩いていると部長(小泉博)が車で通りがかった。部長といっても健介より一つ年上で出世頭だが彼は妻を亡くし、今は独身なのだ。

その後、部長の推薦で妹の紀子はエレベーターガールから秘書課へ配属になった。

部長は紀子を気に入ったらしく、それを知った健介は嬉しく思ったりする。

部長に誘われ音楽会や食事などに行くうちに紀子もこんな生活がしてみたいと思うようになる。赤木家は彼女が幼いころはすでに困窮しており彼女はずっと貧乏で育った。

 

正二は白タクで稼ぐようになったある日、元タクシー会社のそばの食堂で昼食をとっていると同僚からさちが会社を辞めて結婚することを知る。

なんともいえない顔をする正二。そしてその後大森駅前でさちが新郎と新婚旅行へ行くところを目撃する。

 

信三郎は師範学校の同期で今は画家の大家となった安藤の家を訪れる。

成功して金持ちになったものとの対比で画家の安藤が妻(東郷晴子)に2000円を包ませる。その様子から安藤は信三郎とはあまり付き合いたくないことをうかがわせる。

仕事が見つからない信三郎は妻の内職を手伝っているが、気を使った妻が気晴らしに安藤さんの家にでも行ったらというと信三郎も借りた2000円を返しがてら行ってくると意気揚々と出かける。

その2000円は正二が白タクで稼ぎ毎晩母に渡しているお金の中からだが妻は私たちの内職でも5000円くらいにはなるからと言って信三郎に渡す。

ところが安藤の家に行ってみると安藤は接客中で今日は会えない、ついては・・とまたお金を渡されそうになる。憤慨する信三郎は自分は先日借りたお金を返しにきただけで物乞いに来たわけではないと憮然として安藤宅を去るのだった。

松山ワールド全開!

 

正二は白タクで今日も稼ぐのだ。

品川から熱海までの客を乗せた帰り、女(原千佐子)のヒッチハイクを乗せる。

話では男2人と女3人で熱海へ来たが彼女だけあぶれてしまい品川まで乗せてって欲しいという。様子からどもう夜の女性らしいことがわかる。

正二はラーメンも奢ってやり、その後意気投合したふたりは温泉マークで時間を過ごす。別に好きとかじゃない感じでやっぱり正二も男なのだ。松山善三にしたらすごい展開だ!(笑。

ところが女を送っていく途中、正二の車が事故ってしまい、女は(多分)死亡?そして正二も大けがを負う。さらに突っ込んだ先の賠償金で15万円を払わないと示談にならない。不幸の連鎖が。

ただしこの時の死亡したと思われる女(原千佐子)はどうなったのかよくわからず。

 

両親は湘南の健介の家へ金を借りに行くが、結局断られる・・・。

その帰り、裁判所を辞めてから酒もたばこもやめていた信三郎は妻(望月優子)にたばこを買ってきてくれと通りがかった煙草屋へ買いに行かせる。ここで買うのは新生だ。

 

信三郎はひとりで線路わきへ立っている・・・そこへ列車が!

間一髪で飛び込みをおさえた妻。

 

季節は冬。クリスマスの日に最近話すこともなくなった紀子へ寺岡は電話をかけるが切られてしまう。そこで社の階段で紀子を待ち伏せた寺岡は紀子から振られてしまう。

きれいに別れようと今夜は昔のようにデートしないかと寺岡の提案もむなしく紀子はそれも拒絶。その夜、部長とクリスマスを楽しんだ紀子は部長との結婚を決意する。

車の中で接吻を交わした二人・・・車から降り、家へ向かって歩き始めた紀子を待っていたのは寺岡だった。一部始終を見てしまった寺岡は逆上。

「僕と一緒に死んでくれ!」と言いながら出したナイフに驚いた紀子は踏切は遮断機が下り始めたが横断する。下りの電車はうまくやりすごしたが、上りの電車が来て紀子ははねられ(えーーーーーここかなりインパクト大)。

 

葬儀の日、健介が実家を訪れる。病院から退院していた正二は家にあがるなと口喧嘩。

母が兄弟なのだからというが健介は家を後にする。

 

焼き場で紀子の骨を拾うのを妻と正二に任せ、信三郎はちょっと用事をすますというとその足で代書を看板にあげる店へ行く。

前に職安からの帰り、その代書や(といっても今の行政書士ではなく字のうまさを生かして賞状などの字を書く仕事?)で仕事が遅いと怒鳴られながら筆を動かす老人がいた。信三郎は日展に入選したこともあるほど字がうまく、これなら自分でもできると思ったがそこへ自分が就職すると今そこにいる老人の仕事がなくなるだろうと思うような人だった。(ここでも松山ワールド全開!人を押しのけてまで自分が得しようとは思わないのだ)だけれど信三郎はその店を訪れ自分を雇ってくれないかと店主に今日は言うのだった。

店主は横で筆を動かす老人を見ながら他の人に来てほしかったのだが後任がいないと辞めさせるわけにもいかなかったが早速来てくださいと信三郎に言う。

 

こんな感じで物語が進行。すごく面白かったのだが最後が・・・

 

健介は預金通帳を確かめると20万円が貯まっていた。その通帳(なんと住友銀行)と印鑑をたんすから持ち出して妻にこのお金は使わせてもらうという。

妻はこれだけ貯めるのに10年かかった・・・と言うがそれでも健介は正二のために

やはり自分はこのお金を使うべきだと思うのだ。

 

出かける健介を団地のベランダから妻と子供が手を振る(え??)妻も笑顔だ(え!)

 

実家へと続く踏切で(多分 紀子が轢かれた踏切)弟の正二と出会った健介は銀行からおろした20万円を正二に手渡すのだった。

 

この展開ってもうちょっとなんとかならなかったんでしょうか。それに尺の問題なのか

ほんとにこの最後がやたらと呆気ない。ここさえもっと丁寧だったら結末は同じでも私の中では最高な松山善三脚本、千葉泰樹監督作品になったに違いないのだ。

 

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藤原釜足・藤山陽子・望月優子