日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

噂の娘 1935年 P.C.L

監督 脚本 成瀬巳喜男

出演 千葉早智子 汐見洋 梅園龍子 御橋公 伊藤智子 三島雅夫

   藤原釜足 大川平八郎

 

灘屋酒店の娘、千葉早智子は父親思いの典型的な日本女性。対する妹の梅園龍子は洋装でわがままな娘だ。

灘屋の主人、御橋公は婿養子だが、妻に先立たれ酒屋の経営も最近は思わしくない

(と、いうことが酒屋の前にある床屋の客と主人 三島雅夫 若い!笑 との会話でわかる)

先代の楽隠居、汐見洋は毎日店の酒を飲んで好きな三味線を弾いたり、近所へ飲みに行ったりしている好々爺。

だが、最近、店の酒の味が落ちたような気がしているが、婿はおじぃさんの舌が変わったのだという。

 

ある日、長女の千葉早智子に縁談が持ち上がる。それは叔父さん(藤原釜足)からの縁談で、相手はお金持ちの子息だそうだ。家のためと思ったら結婚しなくていいんだよと父から言われるが、千葉はお見合いで相手との結婚を心に決める(多分)。

しかし、お見合いの相手、大川平八郎が気に入ったのは付き添いで行った妹の梅園龍子のほうで、ふたりはこっそり付き合いだす。

妹はお金持ちなら結婚する価値があるといたって平気だ。

 

父には面倒をみている女性、伊藤智子がいる。

千葉早智子は伊藤とは懇意にしており、自分が嫁に行ったあとのことを考えて後妻に来てもらいたいと思っているが、妹の梅園龍子は「妾」を母と呼びたくないなどという。

しかし、その妾は梅園の生みの親で千葉早智子とは腹違いだった。

(梅園がそのことを知っていたのか、あるいは知らないで最後に自分が妾の子だとわかったのかが映画では謎?でした。)

 

千葉が自分の見合いの相手と妹が付き合っていることを知るが、じっと我慢する。

それより、父が酒になにかを混ぜて利益をあげようとしているのではないか・・・

不安に駆られて酒蔵に行く。出て来た父をみて「お父さん・・・」という場面が可愛そうすぎて泣けます。いやホント。

 

結局、警察が店に来て父は連行される。床屋からでてきた義父 汐見洋に「すみませんでした・・」と言う。そこも涙を誘う。いやホント。

 

梅園は自分の本当の生みの親、伊藤が許せないらしく(多分)荷物をまとめて出て行こうとしたところへ警察が来たのでそこでボストンバッグを床に落とす・・(多分)。

 

千葉早智子が祖父に駆け寄って「おじいさん・・」と言う。祖父は「なるようになっただけだよ・・」と言う。ここでも涙を誘う。いやホント(三回目)。

 

床屋では主人の三島雅夫と客が、「今度はどんな店になるのだろう?賭けようか?」などと笑いながら噂している。

そこで終わる。

成瀬作品の真骨頂な終わり方で良かった。

「女の座」でも高峰の息子が亡くなった葬儀の日、親戚たちは談笑したりしている。

当事者以外は現実そんなもんかもしれない。

 

この映画は深川あたりに酒屋がある設定で、今は埋め立てられた一木橋やヤマサの倉庫街が出てくる。江東区福住のあたりだから行ってみたい。

グーグルでみると川は埋め立てられ、上は高速道路でここに昭和10年当時橋がかかっていたとは信じられない。

 

一時間にみたいない映画だけれどうまくできている。千葉早智子が美しい。