日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

鬼火  1956年 東宝

監督 千葉泰樹 脚本 菊島隆三 原作 吉屋信子

出演 加藤大介 津島恵子 宮口精二 清川玉枝 中北千枝子 中村伸郎 堺佐千夫

 

8月に入って更新が滞っているのは・・・スーツさんが2019年に日本一周をした動画を見てしまっているからです(笑。

一日の予算は2000円+視聴回数によって決まり、それを律儀に守ってほぼネットカフェで寝泊まりし、食事はコンビニ。ただそのご当地の食べ物を購入して食べてくれます。

若者って、ほぼ野菜食べなくても大丈夫なのね(遠い目)。そして多分、彼はお酒は飲まない人で(親近感わきます)、けっこう甘いものを食べてます。

毎日予算内で旅行するのでこんな食生活で大丈夫なのだろうかと心配ですがやっぱり若さでしょう。いたって元気なのです。

 

で、この「鬼火」は前にも記事にしたかもしれませんが、暑さが続いた昨日に観るのはぴったりの映画です。

 

まず、土手でガスの集金人、加藤大介がアイスキャンデーを買う。とにかく暑いらしく(土手だしね)タオル・・・というか手ぬぐいで汗をぬぐいながらアイスキャンデーを食べる・・・。

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ガスの集金は家の勝手口から入るのだが、一軒目では奥さんが外出している時にその主人の中村伸郎が女中と関係をもっているところに出くわし、2軒目では勝手口から入ると誰もおらず、財布が置きっぱなしになっている。一瞬手に取るが、財布を戻しそばにあった鍋を財布の上に置いて隠す。家から出るとまたひとりの男がその家へ入ろうとする。加藤大介は鍵がかかって入れないよと言うとその男は返事もせずに去っていく。

そこへその家の主婦、中北千枝子が慌てて帰ってくる。魚屋へ行ったら財布を忘れたことに気づいたというのだ。加藤が財布はその鍋の下ですよというと中北はちょっと疑惑の目を加藤に向ける。このシーンは良い。

 

昔の家って鍵かけずにでかちゃうんだね。私も記憶にあるけど。特に引き戸って鍵かけるのが面倒。

 

泥棒?から守ってくれた加藤に中北千枝子はタバコをお礼に渡す。なんかこのタバコのパッケージってまだあるような気がする。アメリカ?のタバコ?

 

途中、加藤は叔父さんの家へ寄る。叔父さんはなんでこんな場末に転勤になったのだ?というと加藤は自分の集金の腕が良いので滞納の多いこの地区へ配置されたという。

 

 

別の家へ集金に行く途中、同僚に会う。ふたりでよしず張りの店で食事をする。食事代が50円?と言われ加藤は高いと憤慨したりする。

次はこの家・・・の時、その同僚はこの家は無理だよというが加藤は雑草が生い茂って勝手口の引き戸も家が傾いていて?なかなか開けるのに苦労する家へ入る。

でてきたのが津島恵子。加藤はガス代が溜まっているから少し入れてくれというが

彼女は払うことができない。でもガスは止めないでくれと懇願する。カリエスで寝ている夫、宮口精二の薬を煮出すのにガスを止められては困るのだ。

 

加藤は同僚が言った、「たまにはいいことがある」という話を思い出した。

みれば津島恵子はなかなかの美人だ。

そこで加藤は夜、自分の下宿へ来い。寿司ぐらいおごるぜというと女も納得する。

その代わり彼女はガスを止めないでと念を押すのだ。

 

風呂屋に行った加藤はルンルンだ(笑。鏡でひげを剃りながら今夜のことを想像する。

そこには薄化粧し、すっかりきれいになった津島に寿司を前にしてお酌をしてもらう自分がいる。

普通、想像している場面て面白くないのだが、これも最高だった。

 

横では刺青の寿司屋の職人?主人が体を洗っている。そこで加藤は上寿司を2人前持ってきてくれと頼む。上だと念を押して。

 

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昔は刺青の人は普通に肌を出して街を歩いてました。

 

加藤の下宿は産婆?の清川玉枝の家の二階だ。清川は寿司屋が持ってきた寿司を見て

上寿司だとビックリする(笑。加藤の部屋へ運んで寿司なんかとれるのなら溜まっている下宿代を払ってくれなどという。加藤も生活は苦しいらしい。

 

津島恵子は夫に夜出かけると言ってあるが、外出するには帯がない。全て売ってしまったらしいのがここでわかり、生活の困窮具合がわかる。夫におかゆを食べさせていると宮口精二が今夜はやけに優しいなと言われる。

津島が外出できるように宮口精二は自分の締めている帯を布団のなかでほどいて津島に渡す。そして「夜なら(周囲に)わからないよ」というのだ。

ここで思わず泣いてしまう場面その一(笑。

なにせ、津島、宮口の人選が最高。あのガリ痩せ具合だけで絵になる。

これが普通体型あるいはふくよかな役者さんだったらこの映画は成立しない(笑。

 

加藤はなかなかやってこない津島を待つ。寿司はとうに来ている。

 

そこへ引き戸が開く音がして階下をみると薄暗い玄関先に津島が立っている。

顔は見えない。津島が電気を消してくれと二階へ上がる前に言うと加藤は恥ずかしいのだと喜んで明かりを消す。そっと津島があがってくる・・・そして座敷へ座ると泊まるのは困るというので早速布団を敷こうとする加藤・・・。津島に本当にガスは止められませんよねと念を押され、内金を入れた証拠を見せようと電気スタンドを付けると昼間と同じ格好の津島にがっかりしながら「同じ格好じゃねえか」というと、津島は帯がないので主人の帯で来たという。それじゃあ主人は承知なのか?と訊くとそれは知りませんと恥ずかしそうに答えるのだ。この場面も津島の恰好をみて一瞬ぎょっとする加藤の表情が怖さを強調している。

 

階下では帰ってきて玄関に女ものの履物があるのをみた清川玉枝が「お茶でも持って行こうか」と声をかけると津島は逃げ出すのだった。

慌てて追う加藤だが、玄関先で清川から「フラれたのかい?」などと言われてしまう。

おんなの姿はなかった。

 

家に帰った津島は夫に早かったでしょ?という。そしてなんとなく気まずい空気が流れ、津島は本当のことを白状してしまうが、「もう少しで間違ったことをしてしまいそうでした。」というと夫は・・・「俺たちって不幸だな・・・」というのだ。

ここで泣いちゃうその二!というかこの一言で号泣しちゃいます。いやホント。

 

翌日・・・腹を立てながら津島の家へ行く加藤。勝手口から除くとガスが炎を立てて燃えている。「もったいねぇことしやがる」といいながら玄関から入る。返事がないので座敷へ上がると宮口精二が目をむき出して死んでいる。

びっくりして後ずさると首をつっている津島の影!そしてこうこうと燃える炎!

 

慌てて飛び出す加藤は「すまねぇ、すまねぇ」と叫びながら逃げるのだ。

 

一時間に満たない映画だけれど千葉泰樹の傑作だと思う。