日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

大阪の宿 その2 1954年 新東宝 

この映画は佐野周二乙羽信子はもとよりその周囲の人達の人生や事情がうまいこと語られている。

 

三田 佐野周二  東京の生命保険会社から大阪支店へ飛ばされてきた。上司を殴ったことが原因(社員の味方をして)。ただ普通の社員なら辞めさせられるところだが、彼はその生命保険会社の創立者を祖父にもつので飛ばされただけで済んだ・・・ということが同僚の住友からの噂話などでわかる。三田は祖父の形見の金時計をもっているが、住友から祖父のことを聞かれたあと金時計を売ってそのお金をぱーっと使いたいくなるのだ。「月給取りは・・」ということをよく言う(笑。

 

うわばみ(お葉)本名小早川  大阪、北の芸者。三田に惚れている。本人に言わせると芸者が酔うのは客に口説かせないためで大酒を飲むという。気に入らない客はパスしたり、頭からお酒をひっかけたりする。国鉄に勤めていた子供のいる弟家族がいるが一年以上も失業していて彼女が仕送りしている。なんで芸者みたいなもんになったのかと思うが芸者をやめたらどうなるかを考えるとやめることもできない。

 

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土佐堀の三田がいる旅館酔月に押しかける乙羽信子細川俊夫

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この映画の乙羽信子の芸者姿は美しい!

田原 細川俊夫   三田の大学の同期で大阪の会社の重役(本人は三等重役と言っている)。労働問題で組合側にたち、結局は会社を去ることになる。

 

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朝、運転手付きの車に乗った重役細川俊夫が通りがかるとポストで三田と会う

 

 

 

おりか  水戸光子 三田の下宿する旅館酔月の女中。新潟出身だが大阪弁で喋る。「郷に入っては郷に従え」だと三田に説明。板前の男がいるが喧嘩をしては仕事をやめるので金を無心されている。自分の夫だというが旅館のおかみに「ヒモ」と言われてしまう。どうやら籍は入ってないことがわかる。おかみに借金を申し込むが断られる。

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男から金の無心の手紙を受け取るおりか

 

おつぎ   川崎弘子 同じく酔月の女中。夫を戦争で亡くし、中学生の子を田舎に残して働いている。たまには田舎へ帰って子供の顔を見たいのだが、おかみが許してくれない。大人しく控えめで同僚のおりかに自分たちがこうして暮らしていけるのも女将のおかげだ・・・という。

 

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三田に連れて行ってもらった大阪城で戦死した夫の話をするおつぎ

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子供に贈ってやると大阪城で顕微鏡をかうおつぎ、三田が僕が払うというのを断り、自分のお金で買いたいという

 

およね   左幸子  同じく酔月の女中。おりかに言わせると14才で男を知ったアプレゲール。長期滞在している東京の重役多々良純と関係しており、三田も篭絡しようとウィンクしたりするが三田は全く興味を示さない。宝くじを買うのが趣味で三田が売った金時計のお金でおりかとおつぐを大阪城へ連れて行ったかわりに旅館で留守番をしたおよねは宝くじを買うお金をねだるのだ。

 

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野呂の部屋へ入り浸るおよね。現代娘

 

酔月のおかみ  三好栄子 世間はパンパン宿(ラブホ)に鞍替えするなかで格式を守ってって営業している旅館を誇りに思っている。アベックが入ってきてもパンパンだとわかると断れと言ったりするが長期滞在の野呂からの借金した100万円の利息は払えるが元本は減らない経営状態。女中のおつぐに「うちが出ていた頃はな・・」といいかけて口をつぐむ・・・壁にかけてあるおかみが若い頃の踊りの写真が写り、彼女が芸者であったことがわかる。「おとうちゃん」と呼ぶ人は亡くなっているが(写真)芸者あがりならその男性はパトロンだったのかもしれない。

 

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野呂からの出資金を引き上げられ、旅館を衣替え(ラブホ)にしようと街をみてまわるおかみ

 

おっちゃん   藤原釜足  酔月のおかみの兄であることが三田がおりかにきいてわかる。三田が引っ越しした翌朝、洗面所で働いているところをみて「あんた、ここの人だったのか」と三田がいうと「東京の人でっしゃろ、わて、東京の人大好きや」などといい、懐から石鹸やらカミソリやらを取り出し売ろうとする(笑。

おっちゃんは女好きで、通天閣あたりのストリップ小屋の娘と家出したりするが逃げられてまた旅館に戻ってくる。梅田駅で客引きをしたりするのだ。

おっちゃんが持ってきた背広の生地がうわばみの指摘で偽物とわかり、三田はおっちゃんと抗議に行くが・・・

 

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洗面所でモノを売ろうと三田のご機嫌をとるおっちゃん

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通天閣のストリップ劇場で・・

 

おみつ      安西郷子  おっちゃんにニセものの生地を売った娘。元々テーラーをしていたらしいが、父親が病気で寝たきりとなり、その父も医者を信じず、宗教にすがっている。おっちゃんと三田に責められてお金を半金だけもって訪れた旅館で三田に会ったあと、おつぐの紹介で野呂の羽織を直すことになり野呂の部屋へ呼ばれる。

その晩、三田が廊下へでると彼女がトイレからでてきたところでまた野呂の部屋へ入って行った・・・翌朝、朝食を運んできたおつぐからおかみさんに呼びつけられうちは売春宿とは違うと叱られていた。仲裁に入った三田が娘に前夜の半金を返そうとすると「こんなことをしたのは初めてで、でもこのお金は汚いお金ではない、生活保護でもらったお金です」といって投げ返して出て行く。あとで彼女の家へ行ってみると父親が仏壇の前で座っている。声をかけても返事がない。2階からおりてきた娘に「よく眠っているね」と三田がいうと娘は「死んではります」という。昨夜亡くなっていたらしい・・。

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お金を返しに来たおみつだが・・・

 

井原   三田の大学の先輩で今橋で太平洋行貿易㈱という会社の経営者。同窓会の幹事をやる三田が借りる式場のホテルを紹介してもらうために訪れるが三田の会社の大阪支店長(田中春男)にだまされてしまう。

 

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井原に娘だと紹介され、あのポストで会う人だと初めて気づいた三田。

 

井原貴美子  その娘。三田が東京の母に手紙をだそうと出勤途中のポストへ寄ったとき偶然出会い、見惚れてしまった娘が井原の娘だと知る。三田にとってはショーケースに飾ってある人であって手に届かない女性。

 

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どっきりする三田

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井原貴美子役の恵ミチ子

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見惚れてしまう三田

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去っていく後ろ姿にさらに見惚れる三田(笑