出演 田中絹代 香川京子 花井蘭子 堀雄二 清川玉枝 東野英治郎
花岡菊子
この映画をみると無性に新富町あたりへ行ってみたくなる。
戦後5,6年しか経っていない銀座界隈の映像はかなり貴重だし、今は首都高になった築地川・・・数年前に近辺散策し写真に収めたりしたがグーグルフォトって探すのが大変で、撮ったはいいがその後みることはない(笑。
この映画は何度も見たけれど、年々涙腺の緩みが激しくなっているせいか
思わず涙ぐんだところは田中絹代が密かに好きだった堀雄二をそんなことはオクビにも出さず、香川京子に良かったねと言う場面だ。
ところどころ成瀬巳喜男の他愛無い演出?がある。今でいうシングルマザーの話なんだけど
そういう演出のせい(というのか)か暗くない。そんなに大事件が起こるわけではないが市井の人間の生活をこんなに撮れる監督の成瀬巳喜男。地味にいい。
映画冒頭、田中絹代の息子が銀座のいまはなき、「日本堂」という時計屋のところで
そのショーウィンドウを見ている男性に「おじさん、今何時?」と訊くところから始まる。男性は自分の腕時計を見るがどうも止まっている?らしく、日本堂に飾ってある時計をみるが、時計やら宝石やらたくさんあるんだなこれが(笑。
映画の最後のほうでも男の子が男性に時間を聞くという場面がある。
ワタシの子供の頃は(中学に入学するときに腕時計を買ってもらった)商店の中を覗くと必ず壁掛けの時計がどこかにかかっていたし、街中を見回すとビルの正面に時計があったり、それでも見つからない時はこの男の子のように大人に訊いた。
今は店を覗いても時計がかかっていないことのほうが多い。
映画にもでてくる日本堂は30年?くらい前にお祝いで壁掛けの時計を買って贈ったことがあったが、いつのまにかなくなってしまったのは結構ビックリ。街の時計やさんもドンドンなくなっている。
話がそれた(;'∀')
その後、男の子が駆け出して家へ帰るのだが、表通りを右へ入る。
それが
この木塀の日本家屋はバブルを過ぎてもこの状態で残っている。映画で蘇鉄が写っているがいまだに(鉢植えになったが)蘇鉄が門前にある。
男の子が田中絹代と住んでいるのは長唄の師匠をしている清川玉枝の家の2階で
清川玉枝の亭主の柳永二郎もあまり稼がない男性として描かれている。
(板前だったらしい)
賭け事で負けてばかりいるが、大穴を当てて妻にコートを買ってやろうかという場面がある。
男の子が裏口から入るとくたびれた男性の靴がある。それを見た彼は2階にはあがらず、また外へ行く。それは田中絹代を昔面倒みていた三島雅夫の靴だが、その男の子、気が利いている(笑。
三島雅夫は戦前は羽振りがよかったが戦後は落ちぶれて田中絹代からお金をもらうこともある。その日も営業の仕事を始めたから交通費がないといって200円もらう
(当時の200円ていまのどのくらいの価値?)
現在、お茶屋さんはまだあるがもう営業はしていない
あの船はお台場に行くんだってという男の子
今は下が首都高
男の子にあった三島雅夫は田中絹代からもらったお金でおこづかいを渡そうとするが
大きいお札?しかない。男のは「買えばお釣りくれるよ」とIQが高そうなことを言う(笑。
男のが走って(昔の子ってなんだかいつも走っているような 笑)家へ帰る。呉服屋(松島呉服店)と蕎麦屋が並ぶの路地を曲がるんだけどよくみると呉服屋の店先に「松寿し」の暖簾・・・謎。
田中絹代も銀座へ出勤するので出かける
現在がこれ
色々な記事で主人公の年は40過ぎ・・と言われているが、銀座のクラブ ベラミのママが田中絹代の友人の花井蘭子を見たと言われ、彼女はいくつなのか聞かれると「ごーの寅よ」と答えるセリフがある。するとマダムが「あなたより二つ年上ね、彼女は若く見えるわね。」と返す場面がある。「ごーのとら=五黄の寅」ってこと?
調べると1914年(大正3年)なので1951年当時は36,7才、そして絹代は2つ年下だから34,5才の設定だったのではと思う。そもそもあの当時であっても40過ぎて女給、しかも小学校低学年(7歳ぐらい)の男の子がいるから30半ばがギリギリの年齢なんじゃないかな。田中絹代の実年齢が当時42才ほど(1909年、明治42年)だったので勘違いされたのでは?と思う。映画の最後で香川京子との間に交わされる会話にも40過ぎて女給なんてできないし・・・というようなセリフがある。
田中絹代が友人で今は旦那(小杉義男)に一軒もたせてもらっている花井蘭子の渋谷の家を訪ねる。そこであなたも旦那をもてといわれて口にしたのがベラミにも来たことがある、ある会社の社長の東野英治郎。花井蘭子はお金と恋愛は別で、小杉とはお金だけだとはっきりしている。一方で小杉義男に尾羽打ち枯らした三島雅夫のことを言われるとかばってしまうのが絹代だ。
学校帰りに傘がなくて走って帰る男の子。傘をさして歩いている男性の傘の中に入ったかと思うとさらに駆け出して傘やの軒先へ・・・そこには宣伝として傘が開いた状態で吊るしてあって、傘の下で一息つく・・・って演出はなんだか記憶に残る(笑。
ベラミのマダムから店を存続させるために足りない20万円のお金がなんとかならないかと相談された田中絹代。花井蘭子から話があった東野英治郎を思い出す。
明石町のどこかで待ち合わせするのだが、東野英治郎が橋を渡ってやってくる。
この橋は明石橋であろうと言われているが、その明石橋があった場所がよくわからない。廃橋となっていてその後も埋め立てがすすんでいる。江戸時代の絵とか明治時代のことはヒットするけど。
藤村詩集のギャグ
働かない亭主、柳永二郎が2階の男の子の部屋で見つけた「藤村詩集」。
絹代の元を訪ねてくる三島雅夫が藤村という名前なので藤村さんは詩集もやっているのか(書いているのか)とその本を借りる。
花井蘭子が疎開中に知り合った素封家の次男、堀雄二が東京へやってくる。
花井蘭子は小杉義男が来ているからと東京案内を田中絹代へ頼む。しぶしぶ引き受けた絹代だが、堀雄二の清廉潔白さとか、優しさとかに惹かれていく。
銀座を案内する絹代・・・普通の家?があるところがすごい
現在の三十間堀近辺
東京温泉という建物を「今度できましたお風呂屋さんです」と堀雄二にいう。
しっかりトルコ風呂と書かれている。銀座にトルコ風呂って・・・しかも
戦後6年しか経ってない。日本人のこの復興能力のすごさ!
現在の東京温泉後(左側のビル)
ビルだらけの銀座だが、まだ頑張っているところがある
松屋通り沿いにある靴屋さん。このあたり一角はなぜか2階建て?が数件連なっている。角にはスターバックスが入った2階建てがある。
花井蘭子からくれぐれも自分たちの本当の姿(夜の女)は言わないようにとくぎをさされた絹代だが、堀雄二からタバコをすすめられ、おもわずもらおうと手を伸ばすもハット気づいて「ワタクシ、ダメなんですの」とかいうシーンは面白い。
その夜、星の話で盛り上がった絹代は堀雄二に惹かれている自分に気づく。
家出留守番をしていた香川京子が理想の男性なんているのかしら・・と「いるわよ」
と答えたりする。
翌日は博物館へ案内するが堀雄二は田舎から電報があって次の日には田舎へ帰るといいだす。一度帰った宿屋で絹代は「堀雄二は初婚だけど結婚の経験がある女性はどうかとか子供は好きか」などと遠回しに質問したりするところに女心を感じた(笑。
花井蘭子が用意した新橋演舞場へ誘っていたところへ男の子が昼から帰ってこないと香川京子が堀の旅館へ現れる。絹代は男の子を動物園に連れていく約束だったが、反故にして堀雄二につきあったのだ。男の子は外で遊んでいたが、みんなご飯だと帰ってしまい、道であった漁師に一緒に行くか?と釣りへでかけてしまったのだ。
絹代は堀雄二と演舞場へ行ってくれるように香川京子に頼む。躊躇する香川にへんな男性ではないから大丈夫だと言い残し、家へ帰る。
座敷に現れた香川京子をみて堀雄二は(多分)一目ぼれ?。
立ったままでいる香川京子に座ってくださいというが、緊張?のあまり座ろうとする香川にそれでは出かけましょうか?と言ってしまう。そのシーンも面白い。
一方、男の子は魚をバケツにいっぱいにして帰ってくる。その間大人たちは探し回り、川にこどもがはまった・・というセリフなんかもあってハラハラする。
その夜、香川京子は帰ってこなかった。市川の実家に帰ったのだろうと思った絹代だが、翌日堀雄二の滞在している旅館を訪ねると花井蘭子が出てきてすでに旅館を発ったという。しかも女性が泊まったと女中から聞きお冠だ。
現在の同じ場所・・・
家に帰ると香川京子がやってくる・・・。怒りを抑えて「あなた昨日どうしたの?」ときくと「遅くなったから堀雄二の宿屋に泊まった」という。一緒の部屋だがなにもないというが「そんなことが信じられると思ってるの?」と絹代。
しかし香川京子に「彼はそんな人ではない」と言われると納得してしまう(顔をする)絹代だ。
香川京子は最初は自分達のことを隠していたけれど全部話したといい、近いうちに自分を迎えにきてくれるという・・・ショックな絹代だが彼女の幸せを思って「良かったわね」という絹代に涙~~~。昔ならこの程度で涙でないんですが(笑。
三島雅夫がまた訪ねてきても、絹代はもうお金はださない。息子だけが頼りだとしっかり生きていこうとする。帰り道、男の子と会った三島雅夫・・・お小遣いをあげられずに肩をおとして帰っていく。
絹代は今夜も銀座へ通うために橋を渡っていく・・・終。
現在の亀井橋付近
本当に田中絹代は三島雅夫とホントに縁が切れるのか、香川京子は堀雄二とホントになんでもなかったのか・・・どっちともつかないこのあやふやさが成瀬映画のいいところなんだよね~。登場人物は幸福ではないが不幸のどん底でもない。なんとかギリギリのところで踏ん張っている。