日本映画1920-1960年代の備忘録

1920年代の無声映画から1960年代前半の日本映画

名もなく貧しく美しく  1961年 東宝

監督 脚本 松山善三

出演 高峰秀子 小林桂樹 原泉 草笛光子 沼田曜一 荒木道子

   根岸明美 中北千枝子 藤原釜足 高橋昌也 加山雄三 河内桃子

   織田政雄 中村是好 多々良純 小林十九二 十朱久雄 賀原夏子

   小池朝雄 加藤武 村上冬樹

松山善三 監督第一回作品・・・・。

128分の長い映画・・・。長い!と感じるのはなんだか進行が小学生、それも低学年の作文のようだから。

 

1961年公開なので聴覚障碍者に対しては偏見がうずまいていたのだろう。その人達を描いた作品は大いに注目を集め、またこの映画は「手話の普及」に一役買ったとDVDのなかにあった解説文(佐藤忠男氏)にある。

確かにそうだろう。

 

私は監督がいい作品をつくるのは脚本の力が大きいとずっと思っていたので脚本家があまり注目されずに○○監督作品ばかり強調されるのは疑問だったが、この映画をみて

監督の力って、かなり凄いのだと思った。

いくら脚本がよくても・・・映像化する時の演出や進行、その他諸々の大切さがまざまざとわかった私の記念すべき第一回(笑 作品となった。

 

まず戦争末期、空襲で逃げ惑う人々から映画が始まる。

当時はCGなんてなかったから模型をぶち壊したり、セットを燃やしたりしてお金かかっただろうな・・・なんだけれど、この映画の内容からここまでひっぱる必要があるのか?と思った。戦争を経験した人だから力が入るのはわかるが・・・。

 

子供と一緒に逃げた母親が背中に赤ちゃんを背負ったまま撃たれて死んでしまう。

残された幼子は高峰に拾われる。

そして舞台は寺・・・。そこに和尚夫妻、根岸明美、高橋昌也、そして高峰秀子とその孤児がいるのだが、この人達の関係がなんだかわからなく混乱した(笑。

そしてあっけなく戦後のシーン・・・

高橋昌也と高峰秀子が満員電車で買い出しの荷物に囲まれ、高峰の手にはその男の子のために小さい亀がヒモでくくられている。

だが、高峰の留守中、和尚の妻、荒木道子にせっつかれ、この食糧難に孤児など見られないとその子は警察へ・・・帰ってきて必死に探す高峰。聴覚障害なので発音が明瞭ではない。

ここまでの高峰秀子は口をきかない。そしてちょっと知恵遅れ?っぽい動作もする・・・高峰秀子ってお寺の娘?女中?なんだろう・・・と思っていたら

高橋昌也が熱を出して死んでしまう。赤痢チフス

 

原泉が現れ、高峰がお寺から帰される場面に変り、

原泉が文句をいっているが、あっさり高峰を連れて帰る・・・

これでやっと高峰はお寺の息子の高橋昌也の妻であり、根岸明美はその妹であったことがわかるのだが・・・

 

焼け跡のみすぼらしい実家へ帰ると沼田曜一草笛光子がいる。

沼田曜一草笛光子は夫婦?かとしばらく思っていたが、草笛の高峰秀子に対しての言動が酷いのでなんだかよくわからない。沼田曜一は高峰の弟だがよくない仲間とつきあっており、一獲千金を狙って「反町(横浜?)」の家を売ってお金をつくろうと母、原泉に言うが、原泉はあの家は高峰の名義だから高峰に聞け・・というシーンがある。

この弟はなんだか刑務所に入るのだがその後も高峰の夫になる小林桂樹から給料を借りたり、高峰の母、原泉が宝石?を売ったお金で高峰に買ったミシンを取り上げたりするのだがその後はわからない。高峰名義の家はどうした?が最後まで謎。

草笛光子はGI相手の娼婦?のようなことをしているらしい。高峰秀子の姉だとわかったが、自分が嫁にいけないのは高峰のよう障害者が家族にいるからだと実家に戻った高峰が小林桂樹からデートに誘う電報を受け取った時のシーンで原泉と口喧嘩。

結局、草笛は家を飛び出し、10年近く音沙汰無しだが、銀座でバーのマダムをしていて

原泉が草笛の高級マンションを訪れると彼女は中国人の妾をやっていて香港へ行くという話になっている・・。

 

小林桂樹と知り合う場面では、高峰秀子聾学校の同窓会?の受付に小林がいる。

高峰が受付をすませると追いかけてきて話しかける。

そして「上野駅で何時に待っています」と上記に書いた電報をうつのだ。

で、上野動物園に行く二人だが、戦争で殆どの動物は処分されている。

がらんとした獣舎。

で、小林が突如高峰にプロポーズの画面・・・しかし、高峰は私は出戻りだし、母に聞いてみないとわからないというのだが、出会ったばかりでいくら小林が前から高峰のことを知っていたといってもこの展開ってどうよ?

そのデートの帰りは有名なシーンの駅員からキセル?乗車を疑われ、呼び止められるが耳が聞こえないから小林と高峰は改札をぬけて線路沿いの道を歩いて行く。

激怒した駅員から小林が殴られ、高峰が必死で耳が聞こえないことを手振りで訴えると

なんだ○○かという場面となり・・・

電車が行きかう線路際で高峰は小林と結婚する決意をする。

電車の轟音、手話で話すふたり。

この対比を狙ったのだろうが、演出感ありすぎて拍子抜け・・・

結婚式で突如、織田政雄登場する。

ふたりは新婚旅行へ行く(江の島?)

あんな貧乏暮らしをしている高峰と小林桂樹(何をしているのか不明)が結婚式をあげ、新婚旅行・・・戦後すぐだからお米持参。

ここでは高峰が耳がきけない自分たちなので旅館の女将、一の宮あつ子に色々書いた紙を見せる。そこに小林桂樹が感動して・・・を伝えたかったのだというのはわかる、わかる!が、貧乏どうした?と思った(笑。

 

障がい者同士の結婚の次は子供だ。高峰はどうしても子供が欲しいといい、小林は反対する。(ここでふたりで話し合うのだが)

妊娠した高峰は母、原泉に相談すると原はいけない、堕胎しろというが

次のシーンは産婦人科の病室でたまのような男の子の出産を喜ぶ小林と母、原泉。。

高峰の心配は耳が聞こえるかということだがクリア。

えー、最初反対だった小林と原がどうして出産を受け入れたのが不明で突拍子ない。

突拍子なさがもっと続く・・・

 

もひとつ有名なシーンは沼田曜一のことで小林に迷惑をかけた高峰がひとり家をでて電車に乗る。(ホームは大船だった)追いかけて小林も同じ電車にのるが隣の車両は連結されているだけで乗り移れない。窓越しの手話でお互い会話する。

高峰と小林の表情はよかったが、小林が高峰が書いた手紙を破り、電車の窓からちぎった手紙が舞う・・というシーンは陳腐だった。

 

松山善三が言いたいこと、描きたいことはよくわかるが、映画のできは(かなり)悪いと思う。

 

朝、晴れていました。

お弁当をもって動物園に行きました。

弟が転びました。

いろんな動物がいました。

お弁当は卵焼きとおにぎりでした。

帰りの電車は混んでいました。

とっても疲れました。

母が車に轢かれました。

でも楽しかったデス・・・みたいな映画でした。

これを順番に撮っていった感じなんですよね・・映像が・・・。

 

言いたいことはわかる!わかるが演出力が足りません。

そこそこに凝った場面、例えば高峰と小林桂樹がふたりで話す場面はカメラを振って

あえて二人を交互に映すとか、二人の腕から先だけ映したり(手話)、高峰が弟の沼田曜一にミシンをとられオート三輪を必死で追いかける高峰・・とか(これかなり長い間高峰は走った!と思われる 笑)

 

ネタバレですが、高峰はトラックにはねられ死んでしまう・・・

昭和30年代ってほぼ交通事故で死亡・・・な映画が多い。

高峰の墓から帰った小林と翌年は中学にあがる息子。

小林桂樹はブルーワーカーなのだが、なぜかホワイトカラーにしか見えなかった。

 

成瀬巳喜男に撮ってもらいなさいよ(笑。

せめて木下恵介に!

溝口健二なら脚本の時点で却下!

真面目で正直、清廉潔白、それこそ清く正しく美しくの松山善三、デコちゃんが好きになったのもわかりますが・・・脚本家と監督は違いがよくわかった映画でした。

 

出演者が豪華で(といっても私の好きな脇役のひとたち)話がちょこちょこ色々あって、あらすじ全て書けませんでした。(書くの大変です・・ここまでも書くのだって1時間以上かかりました)

続編もあるようですが私は買わないだろうと思います(笑。

松山善三監督作品では他に2,3観たい映画がありますが、DVD購入は躊躇します。

 

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